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観光学(53) 観光を読む

WWOOFと北海道
北海道大学 観光学高等研究センター
センター長・教授 石森 秀三



成長戦略と成熟戦略
 7月に行われた参議院議員選挙で自民党が圧勝し、与党が絶対安定多数を確保した。衆参で多数派が異なる「ねじれ状態」が無くなり、日本の政治・経済・社会・文化の安定化を期待したいが、一方で与党が絶対安定多数を確保したために消費税増税や憲法改正や経済成長路線に突き進んでいくことも危惧される。
 1960年代以来、日本はひたすら経済成長を目指して国づくりをすすめ、80年代には「世界に冠たる経済大国」になることができた。されど、その後にバブル経済が破綻するとともに、東西冷戦の終結に伴うグローバル化の進展でBRICs諸国(ブラジル、ロシア、インド、中国)などが政治的・経済的に力を発揮するなかで、世界の中における日本の地位は下落を続けている。
 今こそ日本はしっかりと足元を見つめ直して、成熟戦略を考えることが求められている。観光分野においても、アジアにおける観光ビッグバンを視野に入れて成長戦略の推進が必要であるが、その一方で観光・旅行分野での成熟戦略を熟考することも重要である。

WWOOFとはなにか
 旅行分野での成熟戦略を考える際に「WWOOF」が重要な示唆を与えてくれる。WWOOFは「ウーフ」と呼ばれており、World Wide Opportunities on Organic Farms(世界に広がる有機農場での機会)の頭文字だ。要するに、有機農場がホストになって食事と宿泊場所を提供し、ゲスト(WWOOFer:ウーファー)は様々な労力を提供するという交換システムのことである。
 WWOOFは1971年に英国で誕生した。当初はWorking Weekends on Organic farms(有機農場での週末作業)が意図されていたが、やがて週末に限らずに活動が活発になり、Willing Workers on Organic farms(有機農場で働きたい人たち)へと発展し、最終的に上記に紹介した名称に変化した。現在は世界50カ国以上にWWOOF事務局が設置されている。ホストとウーファーは共に登録制で信頼をベースにして全世界で様々な活動が展開されている。

WWOOFジャパン
 WWOOFジャパンは、94年から活動を開始しており、有限責任事業組合(LLP)というかたちで事務局を札幌に置き、会員登録費のみで運営を行っている。
 WWOOFジャパンは、つぎのような七つの項目を柱にして活動を展開している。@日本の農業、とくに有機農業を元気にすること、A人を大切にした社会づくり(ウーファー受入による地域社会活動の活発化、知らない人との出会いの場、相互理解の促進)、B食の大切さの見直し、C環境に配慮したライフスタイル(持続可能な社会づくり、オーガニック的思考の学習)、D都会と田舎の橋渡し、E日本と外国のつながりの深化、F日本の再発見(地方文化の尊重・保護、地域経済への寄与)。日本の中でWWOOFの活動に最も適した地域は北海道であり、地道ではあるが、日本人のライフスタイルの変化に伴って今後より存在感を増していくことが期待されている。
 お金のやり取りなしにホストとウファーが互いにできることを提供し合い、コミュニケーションを深めながら自然を大切にするライフスタイルを学ぶことができる。このような地道な動きはやがて日本における旅行の活発化につながっていくはずである。