世界遺産、日本遺産、北海道遺産
北海道大学 観光学高等研究センター
センター長・教授 石森 秀三
世界遺産
富士山が世界文化遺産として登録される可能性が高まっている。六月中旬にカンボジアの首都プノンペンで国連教育科学文化機関(ユネスコ)の世界遺産委員会が開催されることになっており、その会議で世界遺産リストへの登録の可否が決定される。
今年4月末に開催された国際機関イコモス(国際記念物遺跡会議)の会合では、「富士山」と「武家の古都鎌倉」について価値評価と世界遺産委員会への勧告が審議された。その結果、富士山は世界遺産にふさわしい「顕著な普遍的価値」があると認められたが、鎌倉は世界遺産として登録されるための要件を満たしておらず、不登録勧告が出された。
「鎌倉」は、すでに世界遺産登録されている「古都京都」や「古都奈良」との違いを強調するために「武家の古都」を主題にしたが、武家政権所在地の大規模遺構や武家屋敷跡などの遺跡群が見当たらないために、世界遺産登録条件の一つである「完全性」に欠けているとみなされたようだ。
日本遺産
政府は、世界遺産登録を目指す地域を「日本遺産」と総称して、観光資源として活用する制度の創設を検討している。政府は現在、日本文化を海外に売り込む「クールジャパン」戦略を推進しているので、その一環として「日本遺産」をPRしていき、世界遺産登録に向けてアピールしていくことを計画している。
今のところ、日本遺産はユネスコの世界遺産暫定リストに記載されている日本国内の候補地に限定されるようだ。例えば、北海道が北東北三県(青森、秋田、岩手)と協力して推進している「北海道・北東北の縄文遺跡群」などが該当する。
北海道遺産
北海道はすでに「北海道遺産」を有している。北海道遺産とは、次の世代に引き継ぎたい北海道の大切な宝物のこと。豊かな自然はもちろん、北海道に生きてきた人々の歴史や文化、生活、産業など有形・無形の財産が含まれる。2001年と04年に道民参加の下で、北海道遺産の選定が行われ、52件が選定されている。
それらの選定された北海道遺産をアトランダムに列挙すると、稚内港北防波堤ドーム、増毛の歴史的建物群、旭橋(旭川市)、雨竜沼湿原(雨竜町)、北海幹線用水路(空知地域)、空知の炭鉱関連施設と生活文化、江別のれんが、小樽みなとと防波堤、ニッカウヰスキー余市蒸留所、京極のふきだし湧水、北限のブナ林(黒松内町)、昭和新山国際雪合戦大会(壮瞥町)、登別温泉地獄谷、内浦湾沿岸の縄文文化遺跡群、姥神大神宮渡御祭と江差追分、函館山と砲台跡、静内二十間道路の桜並木、モール温泉、螺湾ブキ(足寄町)、霧多布湿原(浜中町)、根釧台地の格子状防風林、野付半島と打瀬舟、森林鉄道蒸気機関車「雨宮21号」(遠軽町)、オホーツク沿岸の古代遺跡群(網走地域)、北海道の馬文化、アイヌ語地名、アイヌ文様、アイヌ口承文芸、サケの文化、北海道ラーメン、ジンギスカンなどである。
日本遺産に先駆けて、10年以上も前に北海道遺産が選定され、NPO法人北海道遺産協議会によって様々な活動が推進されている。次回に北海道遺産をめぐる諸活動を詳しく取り上げたい。