老年よ、大志を抱け!
北海道大学 観光学高等研究センター
センター長・教授 石森 秀三
人生の不思議さ
私は現在67歳であり、いかに晩節を汚さずに「人生の舞台」を降りることができるかについて悩み続けてきた。ちょうど今年3月末で北海道大学観光学高等研究センター長を退任することになったので、北大を退職して悠々自適の人生に入るのも悪くないかと思い始めていた。されど、まだまだやり残した仕事が数多くあるために「世の為、人の為」になる仕事を心掛け続けたいという思いも強く抱いていた。
ところが人生とは不思議なもので、自らの悩みとは裏腹に思わざるかたちで進展するものである。今年1月になって北海道庁の副知事が研究室に突然来られて、道立北海道開拓記念館の館長への就任を要請された。
北海道開拓記念館の館長ポストは本来北海道の名士が座るべき席である。記念館の前館長は堀 達也・前北海道知事、その前の館長は丹保憲仁・元北大総長が就任しておられ、私のような小物が座るべきポストではない。しかし人生とは不思議なもので、開拓記念館そのものが2年後に「道立北海道博物館」に変わることになり、博物館改革の専門家である私が選ばれたのである。
開拓記念館から北海道博物館へ
開拓記念館は北海道百年記念事業の一つとして1971年に開館した歴史博物館であるが、今年11月に一時休館して老朽化した施設の改修工事を行うと共に、展示の改修も行い、2015年春に「道立北海道博物館」としてリニューアル・オープンする予定になっている。
私は1975年~2006年まで国立民族学博物館で助手・助教授・教授・研究部長として勤務し、梅棹忠夫・初代館長の下で新しい博物館の創設にかかわると共に、2004年には文化資源研究センター長に就任して民博の博物館部門の改革を推進した。いわば「博物館改革のプロ」を自任しているので、老骨に鞭を打って、開拓記念館のより良いリボーン(再生)を実現させたい。
観光革新と博物館改革
私は2006年~2013年まで北海道大学観光学高等研究センター長ならびに大学院観光創造専攻教授として「観光革新」の旗を振り続けてきた。今年3月末で北大を退職したが、私の後任のセンター長には西山徳明教授が就任してくれた。西山教授は私が責任をもって九州大学からスカウトした逸材であり、まだ52歳なので後事を託せる学者である。
私は今年4月から北大観光学高等研究センター特別招聘教授に任じられた。このポストは非常勤で無報酬であるが、大学院で国際観光論演習や国際観光開発論演習などを担当できるので、優秀な人財を育てることによって日本観光の質の向上に少しでも貢献したいと念じている。幸い、私が07年に立ち上げた北大大学院観光創造専攻はすでに75名に観光学修士を授与すると共に、4名に観光学博士を授与しており、日本の観光学分野で最も先進的な高等教育・研究拠点に発展している。併せて、私は4月に北洋銀行の顧問に就任して、地域産業支援部アドバイザーとして北海道における観光創造への助言を行うことになっている。
観光革新と博物館改革の仕事は共にイノベーションにかかわっているので、共通する面が多い。「老年よ、大志を抱け!」の心境で、「世の為、人の為」になる仕事を心掛けて、人生の有終の美を飾りたいと念じている。