街並文化
古民家
小樽の街並みに貢献している歴史的建造物の調査をした。日銀や日本郵船のような豪勢な建物以外にも古民家といわれる住宅用の歴史的建造物が数多く小樽には残っている。その調査の過程で、これらに居住される多くの人々からお話を聞いた。そして驚きとともに発見したのは、そのほとんどが高齢者であり、独居だという事実だ。
中には「建物と自分は一心同体」「自分が生きている以上は建物を守る」という積極的な方もおられるが、「仕方ないから」「我慢して」という消極的な方のなんと多いことかを知らされた。
傍目と実情
傍目で「街並みに貢献してくれてありがたい」という認識が、実に軽率であるかと反省した。そんな綺麗事ではなく、貢献の裏には想像を超えた実情が横たわっている。傍目で「寒さを凌ぐ改築技術があるか」「歴史的建造物の伝統技術があるか」「同じ素材があるか」といったハードやソフトの問題より、実情は居住者のヒューマンウエアにこそ大事な問題が潜んでいる。
共通する事情はこうだ。親から引き継いだ建物だから大事にしている。子供たちは自立して小樽にはいない。自分は高齢だから働いていない。いつまで生きられるかわからないが預金があってもいざという時のために使えない。年金は生活するだけで精一杯。趣味や飲み屋で遊ぶ余裕はない。外出は生活に必要な買い物くらい。寒いから暖房費はかさむ。降雪が多くなると倒壊の可能性もある。老朽化しているから維持費もかさむ。建物は誇りに思うが現代的な快適性は我慢しかない。
ヒューマンウエア
快適性と維持技術は可能、素材調達も資金も可能、しかし所有者が拒否、所有者亡き後の相続人が拒否、賃貸人も買い受け人も拒否すれば歴史的建造物は無に帰す。だからヒューマンウエアこそが最も重大なキャスティングボードを握っている事実が見えてきた。
なんとか文化を培う運動形態がないものかと考えている。
素 案
@後見人制度〜安心できる人間関係〜
高齢者は体が不自由になり、あるいは認知症になる確率は高い。たとえば後見人制度のように、信頼できる人間関係をつくり、安心できる生活状態を確保する。
Aリバースモゲージ〜安心できる資金関係〜
介護が必要になったときのために、安心して施設療養するには、所有する建物を担保にして金融機関が介護資金を拠出し、死亡後には担保物件を生かす仕組み。
B信託制度〜安心できる物件関係〜
建物を生前に信託物件とすれば、借金の差し押さえ物件になることを防ぐ信託制度。
C緩和条例〜安心できる法的関係〜
歴史的建造物を再利用する際に、建築基準法を緩和して再利用の幅を拡大する条例。
D再利用ネットワーク〜安心できる情報関係〜
歴史的建造物再利用者が孤立せず、情報交換できるネットワーク。
E移住者ネットワーク〜安心できる移住関係〜
歴史的建造物を改築して居住する移住者へのお世話。
Fライフスタイル支援〜安心できる老後関係〜
充実した老後を送る最大の幸せは自分らしい生活だから、このライフスタイルと歴史的建造物の合理的関係。
G仕事支援〜安心できる趣味と収入関係〜
月5~10万円程度の収入が見込める新たなビジネスモデル支援。
H産業支援~安心できる存在関係~
歴史的建造物はもとよりそこでの生活に仕方が観光資源になるライフスタイル観光。
Iヒューマンスケールのまちづくり~安心できる友人関係~
金銭や名誉や地位よりライフスタイルにふれあうこと、人に会うことが楽しみなまちづくり。
運動は関係づくり
運動の蓄積なくして文化は育たない。運動は関係の蓄積なくして実らない。新たな時代にどんな関係を紡ぐかが大事な気がする。