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観光学(31) 観光を読む

東アジア観光共同体のすすめ
北海道大学 観光学高等研究センター
センター長・教授 石森 秀三



東アジア共同体構想
 批判だらけの菅直人首相が退陣し、新たに野田佳彦内閣総理大臣が誕生した。野田新首相は、今後の外交方針の一つとして、鳩山由起夫元首相が打ち出した「東アジア共同体構想」の棚上げを表明している。
 鳩山構想では、東アジア共同体は東南アジア諸国連合(ASEAN)プラス6が想定されていた。つまりアセアン10カ国+日中韓印豪ニュージーランドの16カ国である。これらの国々はすでに世界のGDPの約23%を占めており、今後もさらに成長が期待できる地域だ。
 ところが野田首相は2012年にこれらの多くの国々で政治指導者が代わることが予想されており、権力交代期にはとかく波風が立ち易いために、「東アジア共同体」などといった大ビジョンを打ち出す必要はないと判断したわけである。
 たしかに野田首相を取り巻く状況は容易ではない。政権与党内の権力闘争、東アジア大震災の復興、福島原発事故の処理、超円高に対する対策、増税問題など、過酷な課題が山積しており、そのために不得手な外交問題はとりあえず棚上げにしておきたい気持ちは十分に理解できる。されど、なんらかの明確なビジョンを打ち出さないと周辺諸国から軽んじられる危険性がある。

欧州連合(EU)に学ぶ
 地域統合を大きく前進させている欧州の場合には、第二次世界大戦後から地域統合への模索が始まった。1952年に欧州石炭鉄鋼共同体が設立され、58年には欧州経済共同体と欧州原子力共同体が発足した。当初は6ヵ国でスタートしたが、92年に欧州連合(EU)が発足し、現在では27ヵ国が加盟している。
 欧州連合の事例でも明らかなように、さまざまな歴史的経緯を抱える諸国間における地域統合は容易ではない。欧州の場合にもまず石炭や鉄鋼や原子力などの地域の共通課題からスタートし、やがて経済全体に移行し、最終的に政治や通貨を含めた地域統合を実現した。半世紀を超える歳月をかけて、着実に地域統合を実現したわけだ。
 東アジア共同体の場合にはより解決困難な課題が数多く山積している。民族も宗教も政治形態も多様性に富んでおり、地域統合はほとんど実現不可能な課題とみなすべきだろう。だからこそ、日本は「東アジア観光共同体」構想を提唱して、地域の共通課題(国際観光振興)を軸にして関係諸国の協働を深めていくべきである。
 日本は2003年に小泉政権のもとで「観光立国」宣言を行い、2010年に一千万人の外国人観光客の受け入れを国家目標に掲げた。残念ながら、2010年には861万人のインバウンドに留まり、その上に東日本大震災が発生し、原発事故の影響などで外国人観光客の入込が非常に落ち込んでいる。インバウンドを増やすためには、明確なビジョンと周到な戦略の構築が不可欠である。