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観光学(66) 観光を読む

人口ボーナスと人口オーナス
北海道大学 観光学高等研究センター
センター長・教授 石森 秀三



人口ボーナス
 私事で恐縮であるが、私は終戦(1945)年の生まれなので、毎年8月15日を迎えると子どもの頃の日本のことを思い出す。太平洋戦争に敗戦した日本は国土が焦土と化し、連合国軍に統治される惨めな国であった。1952年にサンフランシスコ講和条約が発効して、ようやく日本の独立が回復した。その後、朝鮮戦争の特需などによって日本経済は急速に発展し、'56年には早くも「もはや戦後ではない」と言われるとともに国連加盟を実現した。'60年には池田勇人首相によって国民所得倍増計画が提唱され、'67年に国民一人当たりの国民所得倍増を達成した。
 日本の高度経済成長の背景には急激な人口増加があった。終戦の年(1945)の人口は7,200万人だったが、'65年には9,920万人、'85年には1億2,100万人に増加している。戦後40年間に4,900万人も人口が増えている。人口増加によって市場規模が拡大し、高度経済成長が実現された。このような現象は「人口ボーナス」と呼ばれている。ボーナス(bonus)とは「賞与、割増」のことであり、人口ボーナスとは人口増加が経済面でプラスにはたらく現象を意味している。
 東南アジア諸国では「人口ボーナス」現象が顕著に生じており、その結果として市場規模の拡大とともに中間層の増加によって、国内旅行の活発化が生じている。アジア諸国の中間層は2030年には32億人になり、現在の6倍に増加すると予測されている。中間層は外国旅行が可能な階層なので訪日客の増加が見込める。

人口オーナス
 日本はすでに「人口ボーナスの時代」が終わり、「人口オーナスの時代」を迎えている。オーナス(onus)とは「重荷、負担」の意であり、「人口オーナス」とは人口減少が重荷や負担になることを意味している。今後の日本は少子高齢化の影響で人口減少の進展が予測されている。日本の人口は2035年には1億900万人、2050年には9,700万人に減少すると予測されている。北海道の場合には、現在の人口544万人が2035年には424万人、2050年には320万人に減少すると予測されている。日本はまさに人口減少が重荷になる「人口オーナス時代」を迎えている。
 増田寛也元総務相が座長を務める「日本創成会議」は今年5月に、全国の約半分の自治体が2040年頃に消滅する可能性のあることを公表した。それらの地域の若年女性数が2010年と比較すると半滅する可能性があり、全国の約半分の自治体が消滅せざるを得なくなる、という衝撃的な予測である。
 日本創成会議の予測はたしかに衝撃的であるが、地方からみると至極当たり前の予測であり、驚くにあたらないという感じだ。日本全体が2020年東京オリパラ開催決定で浮かれているために、その結果として首都圏一極集中がより加速化し、ヒト、モノ、カネ、情報がより一層首都圏に引き寄せられ、地方がより衰退することは明らかにもかかわらず、マスメディアがひたすらアベノミクス礼賛、東京オリパラ礼賛に終始しているのは問題である。今後、地方の若年層が大都市圏に引き寄せられ、消滅自治体の増加が現実化する。だからこそ、政府は本気になって地方活性化と取り組まないといけないが、現在のような霞ヶ関の高級官僚に牛耳られた中央政府では地方分権や地方重視は進まないだろう。